NOVELS Episode 01

the Girl : 01 - 02 - 03 - 04 - to be continued later...

the GIRL : 03

「――とまぁ、そんな所さ。これで全部白状しましたぜ、親分」
 一通り語り終えたライラックは、満足気に煙草の煙を吐いた。この間、エルムは黙って彼らの話を聞いていたのみである。彼の物語は、まるで己が実際に見てきたかのような口振りであったし、多分に脚色されてもいたが、それは平生の通りでグラジオラスも心得ており、気に止める程の事ではない。
「なるほど、他には何も無いか?」
 グラジオラスは、エルムの方へ向き直り、念を押すと、彼女の視線はライラックへと投げ掛けられた。
「俺かい?」
「ほらアンタ、例の首飾りさ……」
 洗濯より戻って来たジニアが、夫に助け舟を出した。
「ああ、これね」
 ライラックは懐から先程のペンダントをおもむろに取り出し、グラジオラスの前へぶら下げてみせた。
「あの娘が持っていたらしい」
「どうしてそれを早く出さんのだ」
「さて、質にでも入れようかと思ってねぇ」
 ライラックが悪戯な笑みを口元に湛え、チラリと呆れ顔のジニアを伺った。エルムはまたも笑いを堪える。状況を上手く飲み込めぬのはグラジオラスである。咳払いを一つして、
「貸して貰えぬかな?」
と、ライラックに促し、ペンダントを手に取った。そして裏を向け、謎の文様をしばらくじっと眺めた後に、彼はいつになく真剣な眼差しで呟いた。
「こいつは……貴族の持ち物だ」

 グラジオラスの一言で、楽水の空気がピンと張り詰めた。
「……親分、つまりあの娘は貴族だって事かい?」
 ライラックの声色は、常とは違う低いものである。
「そうとは限らん。誰ぞから預かっただけなのか、拾っただけなのか……」
「どうしてこれが貴族のもんだってわかるのさ?」
 今度はジニアが問うた。
「この裏面の文様だ。貴族には家紋の施された装飾品を持ち歩く習慣がある。こいつはおそらくその手の物だろう。いや、無論、鍛冶屋にでも頼めば似たような物を造れなくもないが、しかし――」
 グラジオラスの最後の言葉を、ライラックが継いだ。
「バレちまったら首が飛ぶねぇ」
 皆は一様に押し黙った。若干、エムルのみ沈痛の色が濃い。
「いや、先生。先生が責任を感じることはないさ。困ってる人がいれば助ける、ってのは道理だからねぇ」
 エルムに配慮するライラックと呼応して、すかさずジニアが相槌を打った。
「そうだよ、先生。もし、あたいが先生でも、きっと同じことをしただろうよ。……まぁ、お姫様抱っこしながら街中を走り回る勇気はないけどね」
 途端、ボンッと言う音を立てて、顔を紅潮させたのはエルムである。
「おいおい、それは何の話だ?」
 グラジオラスがここぞとばかりに食い付くと、ライラックは頭を抱えて天を仰いだ。
「かぁ〜ッ、俺としたことが肝心要の重大事項を述べ損ねていたとは……。グラジオラスの親分よ、聞いてくれ給え。先生があの娘をどうやってここまで運んで来たかと言うとだね……って、おおおッ!?」
 気が付けば、ライラックの目の前で、エルムが鞘に収めたままの大刀を、上段に構えている。蒼眼に怒気と涙の激情を湛え、その顔面は熟れた柿の如しである。
「ち、違うんだ先生ッ。これは上段……じゃなくて冗談じょうだ――」
「〜〜ッ!」
 ライラックの命乞いは、無慈悲に振り下ろされた刀によって、虚しく打ち消された。
 表通りでは、雲の隙間から垣間見える落陽が、人々の帰路を急かせていた。

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